千虫譜ウィキ - 原本A1-19


原本B

生物情報

カイコ

翻刻

蠶カヒコ和名抄関東ニヲコト云三月清明後蚕連帋タネガミヨリ蛻シ出ル事早晩ア
リ大概辰巳ノ時ニ出僅ニ一分許黒褐色首ハ御米子ケシノミノ如ク黒く光ル蟻ト
云䖢ト云モノ是ナリ凡此タ子紙ヲ寒ノ水ニ浸シ又雪ニ暫ク埋ル事アリ
極テ性ヨク糸強シト云桑嫩未発以前ニカヘリ䖢出レハ食ニ困ルユヘ
出ザルヤウニ見合ス事アリ此時ハ種紙ノ角ニ糸ヲ穿チ風透ル処ニ
ツリ置事アリ風乾ニヨリテ蛻出セズ桑葉舒暢スルヲ伺テ天気
快霽ノ日早朝飯櫃ノ蓋ノ上ニ右ノ種紙ヲ攤安シ置ハ忽チ蚕児
蛻出モノナリ嫩桑葉ヲ新カニテ細剉シ※(手へんに参)置ハ蚕児上り附ヲ鳥翎
ニテ拂落スベシ長スルニ随テ色変ス五六日ニ長二分餘ニナリツボム事
アリ葉ヲ食ハズ頭ヲアゲテ眠ル状ノ如シ第一眠ナリ一昼夜ニシテ口ノ邊
リヨリ裂テ漸ク旧皮ヲ蛻スキヌヲヌグト云色白ク美ナリ半身以下
ハ葉ニツキ半身以上ハ立ッテ暫ク動カズコレヲ起ト云是ヲ唐山ニテ一
起ト云長サ三分許又九日ニシテ長サ四分許ニナリ眠起最初ノ如シ
第ニ眠ナリ此時長サ四分餘又十四日ニシテ長さ七分餘ニナリ眠起ス
コレ第三眠ナリ此時長サ八分許十九日ニ至テ長サ一寸ニ三分ニ至
リ色白ク微黄ニシテ光アリ眠起初ノ如シコレ第四眠ナリ唐山ニテ
大眠又停眠トモ云此時長サ一寸四分許右ニ図スルカ如シ廿七日ニ
至リテ長サ二寸三分許リ遍身青白ニシテ光アリ黄褐ノ細斑文アリ
横文九節アリ第一節ハ長ク頭上ニ両眉ノ形アリ左右ニ小脚各三足亦
褐色ナリ三節ノ上前ノ方ニヨリテ黒斑※(本文参照)如此紋印スルカ如クアリ六
七節ノ下ニ左右ニ大脚各四脚アリ端疣子ノ如クヒラツタシ九節ノ上ニ
肉刺一起ス恰モ山薬蠋イモムシノ刺ニ異ナラズ尾ハ其ノ端ワレテ扁ク両方ヨリ枝
葉ヲ挟ミシガム事脚ノ如ク働ヲナスニハナレズ微ク毛茸アリ但雄ナル
者形色如此其雌ナルモノハ微ク短クフトメニシテ色暗ニ斑紋分明ナラズ
是其盛長ノ極ニ至ル者ナリ桑葉ノ厚硬深缺ノモノヲ連朶ニテ
其上ニ蓋置ハ忽ニ移テ暫時ニ蝕ミ尽ス其葉ヲ咬音風雨ノ木葉ヲ
撃カ如シ此時十分ニ盛ニ桑ヲ啖フテ満腹ス故ニ肚内緑色外に徹
シテ碧色ニ見ユ皮白クシテ青色ノ上ニ白粉ヲ塗タルカ如シ其後頭ヲ挙
テ絶食ス喉下三節四節ト段々ニ透徹シメ琥珀色ニナルヲヨクトリ
アケ試ムルヲ喉アカルクナルト俗ニ呼フ奥州ニテハ方言ヒキルト云其

書き下し

現代語訳

蚕―和名抄*1ではカヒコ、関東ではヲコといい、三月清明後*2タネガミ*3から生まれる事が、おそかれ早かれある。
大概辰巳*4の時に、わずかに一分*5程度黒っぽい茶色で頭がケシ粒のように黒く光るものが出てくる。
蟻とも、䖢というものはこれである。このタネガミを冷たい水に浸したり、雪に暫く埋める事がある。
とても質がよく、糸が強いという。桑の若葉が出る前に小さなカイコが生まれれば、食べ物に困るので
出てこないように見合わす事がある。此時はタネガミの角に糸を通して風のとおる所に
つっておく。風によって乾き、卵から生まれる事がない。桑の若葉がよく育つのを見て、天気
快晴の日、早朝飯櫃のふたの上に右のタネガミをそっと置いておけばたちまちカイコが
卵からかえる。桑の若葉をあらたに細く刻み、カイコをおいておくと、カイコがのぼってきたら鳥の羽
で払い落とそう。大きくなるにつれ色が変わる。五六日で長さが二分(約6ミリ)あまりになり、ちぢまること
がある。葉を食わず、頭を上げて眠るようになる。これは第一眠という。一昼夜して、口のあたりが
裂けてようやく古い皮から脱皮する。キヌを脱ぐという。色が白く美しい。半身以下
は葉について、半身以上は立って暫く動かない事がある。これを起という。これを中国では一
記という。長さ三分*6ほど、また九日もすると長さ四分*7になり最初の様に眠起する。
第二眠である。此時長さ四分*8ほどで、また十四日して長さ七分*9になり眠起する。
これが第三眠である。この時長さ八分ばかり*10十九日になって長さ一寸ニ三分*11になり、
色白くかすかに黄色く光がある。初めのように眠起する。これが第四眠である。中国では
大眠また停眠ともいう。この時長さ一寸四分*12ばかり。右に図したように、二十七日に
なって、長さ二寸三分*13ぐらい全身青白くツヤがある。黄褐色の細かい斑模様がある。
横九節あり、第一節は長く、頭上に両眉のような形があり、左右に小さな足が三対。
また、褐色の三節の上前の方によって、黒い斑模様(本文参照)如く紋を判でおしたようにある。六
七節の下に左右に大きな脚が各四対ある。端は疣のように平たく、九節の上に
肉の刺が一つある。恰もヤマイモの虫の刺*14のようである。尾*15は、端がわれて平たく両方より枝
葉を挟みしがみつく様子は脚の働きはなれない。短い毛が生えている。オスは色形はこのようであるが、
雌は短く太めで色が暗く斑紋もはっきりしない。
もっとも大きく限界まで育ったものは、桑の葉の厚く堅く深くえぐれた物の連なる枝を
その上におおっておいておけば、たちまちうつって、すぐに食べつくす。その葉を咬む音は風雨が木の葉を
うつかのようだ。この時十分に桑を食って満腹する。故に腹の内の緑色がすけて
碧色にみえるが、皮が白くて青色の上に白い絵の具を塗ったように見える。その後頭を上げて
絶食する。喉下三四節とだんだんに透けていき、コハク色になるのを、よく取り上げて
ためすのを、喉あかるくなると俗にいう。奥州*16ではひきると云。

備考