かもす事は、山蜜と違う所はない。だけれども、家蜜は毎年採り、花の
種類も深山のものと異なるからだろうか、その蜜は薄くて山蜜の濃くて味が濃厚でおいしい
事にかなわない。
家蜜の房内に所々滴ってたまたったのを集めて使うのは最上級品である。けれども
これはたくさんはとれない。だから、房を三分の一残して蜂の食料とし、三分の二をとり袋布
または大きなザルにもり、その下に磁器を置いてうけて、暖かい所に置いて、太陽に晒す。
すると、蜜は自然とやわらかく溶けて下に滴となって落ちる。これを垂れ蜜と名付けて最上とする。これが
生蜜である。この蜜が春冬を経て色が白く固まり、砂のようになったのを、白蜜または
白砂蜜である。また、蜜の入った巣を大きな釜に入れて熱し、絞り取たものをシボリ
蜜という。これには、蜂の子もまざり、色が赤く、濁るので二級品とする。いわゆる熟蜜
である。熊野蜜はこのような二級品にすぎない。
だいたい蜂が蜜を醸すには百花の清潔で純粋なる津液
*1を用いて作りだした物である。
醸すのに、不潔の物を用いるという古説あるけれども、ひどいでたらめの説であると貝原翁
*2が
ぬれぎぬを訴える説があるので見るべきである。
だいたい蜜蜂は春の末分かれて飛んで一箇所にむらがって、玉のようになって人家の軒や木枝
にぶら下がっている事がある。これは親蜂について子蜂が分かれる所である。大概八十八夜
*3から四五日際
夏至の頃までに分かれるものは、性質がいい。
秋に分かれる事もあるが、あまり性質はよくない。堂へ入れて飼っても
居つかないで、逃げてしまう事がある。夏の土用過ぎて分かれるものも時期はずれで益が無いというから、
まして、秋月分かれるものにおいては当然いうまでもない。
蜂を養うのに木で作った箱を
堂という。高さ一尺一寸横一尺二寸深さ
一尺四寸という。
*4これが定番である。開き蓋には小さな穴を開ける。下の方に五つ並べ
てあけるべきである。下に一つ開きまた横に細長く五か所ほど、あかりとりの穴を開くといい。
その穴はミツマメくらいが、蜂の出入りが自由になってでちょうどいい。穴が大きすぎると
熊蜂
*5が入って蜜蜂を食い殺し、蜜を吸い取る。これがあると、集まった蜂は古巣を
捨て去る事がよくある。
蜂が分かれて群がって集まっているのを飼おうとするなら、箱または酒樽の内に蜜を塗り蜂を
ほうきで払いおとし入れて置けば、一夜で隅の所に巣を作る。前に図に
描いたのは桶である。寒くなったら
菰で外を包み、南を受けて暖かい所に置くのがよい。
箱や桶の内に分かれた蜂を入れ終えたら、内にさらに蜜をいれ
箱の中におき、小穴までも残りなく杉の葉を外からさして塞ぐ。二、三日
も居てなじんだのを様子をみて杉の葉を取り去る。筑前
*6では藁で編笠
のような物を作り内の上の所に酒を塗り蜂の多く群がっている所を