皆左の方へ集まる。右の方の巣が見えるようになったのを切り取るのは簡単である。
また左の方を切ろうとする時も同じようにする。群れた蜂が怒って人を追い回したり刺すだろうと
あらかじめ覚悟していたが、意外に穏やかで、普通の蜂の類とは全く違う。巣を切り取る人
は服を腰にまとって、上半身は服を脱いで肌をあらわにして切り取るのに、すこしも毒に刺される様子がない。
その人が言う事には「服の間に蜂が入ったのを押すか、痛めつけると、ようやく刺す。人を刺すと、
その蜂はたちまち死んでしまう。だから人を刺す事を好まないのだ」という事である。恐れるにたらない。
もし、刺されたたといっても、他の蜂のような腫痛はない。その毒も大したことはない。
もし刺された人はすぐに生蜜をぬるべきである。すぐに、その痛みは止まり腫れも
ひき楽になる。
大体世の中に流通する丸薬は薬剤を皆この蜂蜜を練り、不純物を除いて作る物である。
世の人々はこれによって他にない好い薬を使う事ができるようになった。
人々はこの物の利益を得るもの数えきれない。しかし、蜜は
どんな物かという事を研究する人はいない。ただ、味が甘くておいしいという事を
知っているだけである。なので、ここに開巻第一にこの蜂を描いてその功績を記述して
その、神や霊の計り知れない技がある事を広く人に示したのである。
だいたい、蜂で薬末を練ろうとする時に、そのままでは使いづらい。
これを練るには方法がある。分量を量って蜜を陶器に入れて鍋に沸騰した湯を沸かして入れ湯銭にして熱し
沸き上がろうとする時、泡が上に厚くなっているのを紙に浸して、竹ベラですくいとって
その蜜を冷水にたらして玉のようになって散らないのを目安とする。これで丸薬を練り
壺にしまって貯えるべきである。百六十匁
*3を練り泡を取り去り、百二十匁
*4を得るべきである。
このようにすれば、年を経ても壊れる事が無い。
江戸官家に蜂堂を庭に作って蜜をとって遊びとした事がある。堂内には
部署を作っており、その上の奥の所に王の座があり、郡臣が次に列になって
自然に官職があるようである。下に集めた花の会場がある。大きな巣を作っているのが蜜のありかである。
堂の下辺に小穴を並べて五門あけたら、その小穴にそれぞれ五匹の蜂が並んで各門を守っている。
来る蜂の貢ぐ花を監視している。群れた蜂は早朝に堂から出て正午ごろ花粉や
汁を含んで来て衛門に入る時監視役の蜂が是を確認して入れてやる。もし
花を含まず入りこようとするものがあれば、厳しく追い返して入れてやらない。争って拒む者がいれば