虫白蝋 和名イボタロウ。これはイボタという木につく虫の巣を熱して取る
蝋だからだ。奥の会津
*1から多く取れる。なので会津ロウともいう。イボタは水蝋
樹である。背の低い灌木であり女貞
*2に似て、田や野原の道端の境に短墻
*3に用いる。その山の中に生
える物は樹皮に白い粉を多く厚くまとい、綿のように色が白い。これはその虫の巣であって、爪
でもめば、やわかくはげて取れるものである。遠くから見ると樹皮に雪が積もっているように見える。俗
にイボタの花というがそうではない。花は別にある。たれた梢に小さい穂を出し、四枚の花びらを持つ小さな
白い花があつまり生ずる。夏の月に開き腐った木の臭いがある。また別に虫が多く着いてその葉を
食うものは見ない。ただ巣ばかり見える。備後
*4では山オシロ
イ阿州
*5ではトバシリ、播州
*6ではトスベリトいう。この虫の粉をとり戸障
子のきしんで、動きにくい時つかえば、勢いがよく、これが光と滑らかさを引き起こし、戸が動き
走るので、この方言がある。又イボをとるのに用いる。疣の根をきつく
縛っておいて、この蝋を一滴、熱してたらせば、イボがとれる。その為イ
ボタの名がある。イボトリが縮まったものである。この虫の巣を集めた
のを蝋滓という。袋へ入れて熱して漉し、冷水の中に入れると、蝋になる。再び
熱して磁器の入れ物に漉しいれて布で漉せば、真っ白で光沢があり、とても
堅い。割き開き、これを割ると
刷糸紋
*7が見える。これを虫白蝋という。また虫
蝋と称して、漆蝋、木蝋と区別する。元来できものに用いて、膏薬と
するのは、皆、この蝋を用いるべきものだ。今は多くある、漆蝋を用いて膏
薬を作るのはよくない。新しいのはかぶれるものである。
*8唐山
*9で
は女貞樹
*10でこの虫を飼育する。故に、蝋樹という。朱色を加えて練り
にせ珊瑚球とするものである。