千虫譜ウィキ - 原本A1-32


原本B

生物情報

翻刻

   アヅキアライ 羽アリ飛フ事一二尺ニ
   不過大サ胡麻ホドアリ紙窓ニテトマリ声
   ヲナス赤豆ヲ洗フ音ニ似タリ茶タテ
   虫ノ類ナルベシ 微細ナル声
   
   今虫眼鏡ニテ写ス

虻ノ類ニ種
上図
背アサギイロニ
光ル

△ホタルダマシ 蝿ノ一種ナリ蛍ニヨリ似タリ
羽黒ク蝿ノ翼ノ如クナル紋脉ヨクミレハアリ飛フ
事至テ遅鈍ナリ柔弱ナルモノニテ手ニトレハ早クヨ
ワルモノナリ指ニ黒粉染ル三月ノ頃出ル

○文政四 辛巳年六月十四日 土用前 七日
西丸*1ヨリ鑑定セヨト
命アリ中山内匠頭
鵜殿藤三郎ヨリ手
紙ニテ申シ来ル

ホタルモドキ
十四年巳前文化五辰ノ六月
廿七日ニトリ写シタル虫ト同物
ナリ土用ニ入ル日ナリ □

□ 一体ノ質堅シ六足短シ其足ヲタヽミ
テハラニカクシヒゲヲ伸タルトキ不動叩
頭虫ニモ似タリコメツキ虫ヨリ扁シ
腹ニ足ヲ畳込タルトキ木ニテ彫刻シ
タル如シ光リナシヨクミレバ細條アリ鬢
至テ柔ニシテ横ニ断紋アリ人手ニ触レハ六
脚タヽミ込テナキカ如シ

書き下し

現代語訳

  アヅキアライ 羽があって飛ぶ事があるが、30cm〜60cm
  に過ぎない。大きさは胡麻ほどあって、紙窓に止まって声を
  出す。その音は小豆を洗う音に似ている。チャタテ
  ムシの類だろう。とても小さい声である。

  今虫眼鏡を使って写した。

虻の類ニ種
上図背浅黄色に
光る

△ホタルダマシ 蝿の一種である。ホタルに似ている。
羽が黒く蝿の翼のような紋脈をよくみればある。飛ぶ
のは大変遅い。やわらかく弱いので、手に取ると早く
弱るものである。指に黒い粉がつく。三月の頃でる。

○文政四*2 辛巳年六月十四日土用前七日
西の丸から鑑定しろと
命があった。中山内匠頭
鵜殿藤三郎より手紙
にて申し出があった。

ホタルモドキ
十四年巳前文化五*3辰ノ六月
二十七日に写した虫と同じ物だ。
土用に入る日である。 □

□ 体の質は堅い。六本の足は短い。その足をたたんで
腹に隠して、ヒゲが伸びている時は不動*4のようすは
コメツキムシにもにている。コメツキムシよりひらたい。
腹に足を畳み込んだ時は、木の彫刻したようで、
つやはなく、よくみれば、細い條がある。触角は
至って柔らかく、横に断紋がある。人がふれれば
六脚をたたんでまるでないかのようだ。

備考