千虫譜ウィキ - 原本A1-46


原本B

生物情報

オトシブミの一種、ウスタビガ

翻刻

山ガマス 又云カラビツコ
戌午年八月十日自取写之
黄柏ノ枝上ニアリ一種
野蚕ノ繭ナリ

伊威在室 讃州白峰所謂綾ノ松山
     郭公ノタマヅサ
東寺宝持坊著全八巻アリ
 和語私臆抄高野ニアリ葉如此つ々に巻タリ
 其巻タル中空ナリ虫ノ巣二モ非ス皆横ニ巻テ
 アリ薄キ常体ノ葉也高野ノ僧二
 問二一種之木ノ名ニ非高野ノ
 奥熊野諺ニ家毎に諸木ノ
 葉如此巻時鳥出ルトキ時
 鳥此葉ヲ含ミ散ス故ニ
 此名アリト云ヘリ
 余カ見シ葉ハ此図ノ
 如シト云貞幹按ニ
 時鳥ノ玉章古名綾ノ
 松山也讃州白峰ニテハ時
 鳥来リ嘴ニテ椋ノ葉ヲ如
 此ニ結テ去ト云ヘリ然ルニ蘭山ノ説に時鳥ノ玉章トテ鳥ノ作為ト云ハ誤ナ
 リ虫ノ巣ナルヨシ是亦一隅ノ見ニシテ捨ベカラズ野州日光山ニ鶯の経マキト云○

○モノアリ鶯音ヲ止ンスル
 マヘニ樹葉ヲ尽リ巻テ
 経巻を捲タル形ノ
 如シコレヲ人々見レ
 ハモハヤ鶯声ヲ
 止ルト云ニ果シテ△

△其詞ノ如シ文政初年芝
 陽貞幹兼テ秘蔵セルヲ
 一箇ヲ贈示サル樹葉ハ□


書き下し

現代語訳

山ガマス またカラビツコともいう。
戌午年*1八月十日自ら採って写した。
黄柏*2の上にあった。
野蚕の一種である。

伊威在室*3 讃州*4白峰いわゆる綾ノ松山
     郭公*5ノタマヅサ*6
東寺宝持坊*7著全八巻アリ
 和語私臆抄*8云に高野にある。葉がこのように筒に巻いて
 巻いた中は空である。虫の巣でもない。皆横にまいてある。
 ある。普段は薄い葉である。高野の僧に
 聞いてみた所、木の名前ではなく高野の
 奥熊野の諺に家ごとに様々な木々から
 時鳥*9が出る時、このように葉が巻かれている。
 ホトトギスがこの葉をくわえて散らすので
 この名があると言った。
 私が見た葉はこの図
 ようである。云貞幹によると
 ホトトギスのたまづさの古い名前は綾ノ
 松山である。讃州*10の白峰では
 ホトトギスが来て、嘴で椋*11ノ葉を
 このように結んで去ると言っている。ところで蘭山の説にはホトトギスのたまづさといって鳥が作るというのは間違いであ
 る。虫の巣である。これは一部の意見として捨てるべきではない。野州*12日光山にウグイスの経まきと言○

○ものがある。ウグイスが声を止める
 前に樹葉ヲ作り巻いて
 経巻を捲いた形の
 ようする。これを人々が見ると
 ウグイスは鳴くのを
 やめるという。はたして△

△その言葉の如し*13文政初年*14
 芝陽貞幹が前から秘蔵していた物の
 一箇を贈って示された樹葉は□

備考

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