千虫譜ウィキ - 原本A1-47


原本B

生物情報

ダニ

翻刻

□不詳其葉ヲ堅ク巻テ中空ナラス然レハ虫巣ニモ非ス一種ノ奇物ナリ貞幹ノ説ニ
 私臆抄元禄ノ頃ノ書既二虫巣ナラザル事ヲ記親クミルニ讃州土人説モ亦然リ

人虱 清俗六脚虫ト云。和俗半風ト云風ノ字半ヲ書テ以テ此名トス人身ニツク
 時ハ色白ク歩ム事遅シ髪ニツク時ハ行ク事疾ク色黒シ按ルニ髪虱ハ
 形長シテ黒色能毛ヲ攀ル事
 至テ早ク出没スル事速捷ナ
 リ蓋シ別ニ一種ノモノナリ
 陰毛中ノモノ形円扁ニシテ
 草ダニノ如シ皆各其異
 ナリ

イヌノダニ 狗耳ノ肉ニ多クアリ其外
毛ノナキ処ニクヒイリテ付ク
形萆麻子ノ如ク青ク光ル
潰セバ黒血出ル

牛蝨 ダニ 石州 雲州
ニテホジト云 水戸ニテスダリ肥前ニテキハフツ
ツブト云一男子歳五十四臍中に時々痒ヲ覚フ三十日ヲ経テ其大如酸枣微扁
左図ノ如シコレヲトラントシテ引ハ痛ミテハナレズ同僚桂甫賢コレヲ薬線ニテ結
ヒテ一夜ニシテ離レ落タリコレヲ熟視スレバ牛蜱ナリ八脚烈在シテフグノテフノ
如ク八足ウゴクノミ
目ナク觜長く尖
微ク曲レリ予ニ鑑
定ヲ乞フモノ初栗粒ノ大サ後三十
日ニシテ大サ如此トコレナリ文政戌子秋月

書き下し

現代語訳

□わからない。その葉をかたく巻いて中は空ではない。だから虫の巣でもない。奇妙な物だ。貞幹の説によると
 私臆抄*1元禄*2の頃の本で、既に虫の巣ではない事ヲが記されている。よくみるに、讃州*3庶民の説も同じく否定されている。

人虱 清では俗に六脚虫という。日本では俗に半風という。風の字の半分を書いて、その名前を指すからだ。人の体につく
 時は色が白く、歩みも遅い。髪につく時は動きがすばやく、色が黒い。髪虱は
 形は長く色も黒色で、毛にしがみついて、
 大変早く出没し俊敏である。
 もしかすると別の一種かもしれない。
 陰毛の中のものは、形が丸く平らで
 草草ダニに似ている。皆それぞれその形が
 違う。

イヌノダニ 狗の耳に多くついている。その外、
毛のない所に食いつく。
形は萆麻子*4に似て青く光る
潰すと黒い血が出る

牛蝨 ダニ 石州*5 雲州*6
ではホジという。 水戸*7ではスダリ、肥前*8にてキハフツ
ツブと言う。五十四歳の男が、へその中に、時々かゆみを覚えていた。三十日後その大きさ、如酸枣*9わずかに平たい。
左図のようである。これをとろうとしてひっぱると、痛みをうったえ、はなれない。同僚の桂甫賢*10がコレを薬線*11で結び
一夜にして離れて落ちた。これをよく見ると牛蜱*12であった。八本の足が列になってつき、フグのテフ*13
ようだ。八つ足は動くだけ。
目がなく、嘴*14長く尖り
少し曲がる。私に鑑
定を頼まれた時は栗粒の大きさだったが、三十
日すると大サ図のようになった。文政戌子*15秋月

備考

アタマジラミとコロモジラミ、ケジラミの違いに気づいていた模様。