千虫譜ウィキ - 原本A1-51


原本B

生物情報

クスサン

翻刻

楓蚕繭 テグスノ虫の巣ナリ二種アリ其綱ノ袋ノ内ニ蛹スキテ見
    エルモノナリ一種ハ繭の糸弱ニシテ網ノ目細カニ赭黒色ナリ
田舎野人此巣ヲ取リ指頭ヲ入テ茶葉ヲ摘ム指端痛ム事ナク疲レスト
云俗にスキダワラト云田舎ノ小児此巣ノ中ヘ蛍火ヲ納ルニ外ヘ光透通
リミエ因テ蛍袋ト云

(左上)

天蚕繭コレ蝶
ニ化シテ繭ノ口
ヲヤブリテ出去
アトノ空殻ナリ
此蛾形大ナリ別ニ
図アリ

(左下)

此モノマユ野
蚕ヨリ大ニシテ
糸堅靭ナリ
唐山ニテハ此虫巣ヲ
造ラントスル前ニ腹ヲ裂テ其
糸ヲトルト云即チ天蚕糸テグス

書き下し

現代語訳

テグスの繭である。二種ある。その綱の袋の中に蛹がすいて見
    えるものだ。一種は繭の糸が弱く網ノ目細かで赤黒い色である。
田舎の人々は、この繭を取り、指の頭を入れて茶葉を摘むと指先が痛くならず、疲れない
という。俗にスキダワラトいう。田舎の子供はこの繭の中にホタルを入れて、外へ光が透き通って
みえるので蛍袋という。

(左上)

天蚕繭 これは成虫
に羽化して繭の口
を破って出て去った
後の殻である。
此の蛾姿はおおきく、別に
図がある。

(左下)

この繭は、野
蚕より大きく
糸は堅く強い。
中国ではこの虫が繭を
作ろうとする前に腹を裂いて、
糸を取るという。それが天蚕糸テグスである。

備考

田舎の人が茶摘みの際のユビサックにスカシダワラを使っていたり、
子供がホタルを入れて遊ぶなど、
当時の風俗が知れる貴重な記述といえるだろう。