千虫譜ウィキ - 原本A1-77


原本B

生物情報

翻刻

鈴虫ニ能似タル虫 背平ニシテ脇稜ヲナス 丁丑九月六日写
首ホソク嘴長ク下ヘ曲リ鉤ノ如ク二ノ短鬚アリ総身土黒色ニシテ
ツヤナシハラ黒褐色羽ハ小タヽミテ背に負フ 足淡褐色ニシテ黒
斑点アリ前足黒クツケギワ至テホソク俄ニフクレ又サキワ至テ
ホソシ
(左頁上段)
軍配虫 俗ニ云グンバイ団扇ノ状ニ似タリ因テ此名ヲ命ス甲戌仲
夏下澣 西城ヨリ御尋ニ付略図ヲ添テ返上ノ時此名ヲ申
上ル漢名ナシ
全躰スキトヲ
リテ雲母片ノ
如シ翼ノ筋ミ
ナ六角ニ亀
甲紋ヲナス
項下ノ小羽上ノ方へ向テ
竪ニ出写真スト𧈧
共緻密ノ至極ノ処ハ画キ難シ
夏秋の際希有ノ一小羽虫其形胡麻粒ヨリ小キカタナリ
顕微鏡ニテ照観レハ其頭三方ニ小羽出テ■(糸+女)帽ヲ載ル
カ如シ白斑ノ処ハ白キ網目ノ如キ細紋脉亀甲文ヲ
ナス真ニ奇功筆力ノ及ハサルモノナリ其形ノ大概ヲ
コヽニ手写スト云

(左頁下段)
○盆翫蓮ノ巻葉及茎
ニツク油虫ナリ大サ荏
子ホトアリ虫眼鏡ヲ以テ写ス

書き下し

現代語訳

鈴虫によく似た虫 背は平で、脇が曲線を描いて膨らむ。 丁丑*1九月六日写
首はほそく、くちばしが長く下へ曲がり、カギのようである。短い鬚が二つある。前肢黒土色で、
ツヤはない。腹は黒褐色で、羽は小さくたたんで、せおっている。足はうすい褐色で、
斑点がある。前足は黒く、つけ根は大変ホソク、急にふくれて、また先は、大変
細い
(左頁上段)
軍配虫 俗にグンバイという。うちわの形に似ているので、この名をつけた。甲戌*2
夏下旬 西城*3からおたずねだったので、略図を添えて返す時この名を申し
上げる。漢名なし。
全身透き通っていて 全躰スキトヲ
雲母*4片の 
ようである。翼の筋はみな
六角で亀
甲紋をしている。
頭の小羽は上の方へ向いて 
たてに出ていて、写生するといっても、 
緻密さの極みの所は絵に描きがたい。
夏秋の際、めずらしい一小羽虫である。其の形、ゴマつぶより小さい形である。
顕微鏡で照して見れば、頭に三方に小羽が出て■(糸+女)帽(B本では紗帽)*5載せる
ようである。白いまだらの所は、白い網目のようで、細かい亀甲文を
している。本当に、奇功で、筆力がおよばない。その形のおおよそを
ここに手で写すという。

(左頁下段)
○盆栽の蓮の巻葉および茎
につくアブラムシである。大きさえ
ゴマほどあり、虫眼鏡をつかって写す

備考