千虫譜ウィキ - 原本A1-85


原本B

生物情報

翻刻

ワレカラ尾州産其地ノ方言ナリ是一
種ノ水虫二シテ海菜ノリ或ハ雑者ザコノ中ニ交リ
上ルモノナリ一寸或ハ寸半許リアリニ
寸ニ至ルモノモマヽアリ色青シタマ々
黄ハミタルハ色モ形モ弁別シ
カタシ工因ハレカラクワヌ上
人モナシト云ヘル事ハ能登ノ国
人ノ常諺ナルヨシ輪池先生
別ニ詳説アリ見ルベシ紀
伊国ニテ云ワレカラハ藻中
ニ棲小貝ナリコレモ一説ナリ然
レ共藻ニ棲虫ノ説穏当ナリト
スベシ上図ハ尾張ノ人植松忠右門有信ナルモ
ノ屋代氏へ写贈所ノモノナリト云

蠲 ホタルムシ
五六月池沼泥中に生ス
形扁ニシテ黒色小刺ア
リ昼ハ眠リ不動夜
ハ蠢々トシテ行尾下
光アリ蛍火ト異
ナラズ本綱弘景云
是腐草及爛竹根所化初時蛹腹下
已有光数日変而能飛ト云モノ是也時
珍云一種長如蛆蠋尾後有光無翼不
飛一名蠲俗名蛍蛆明堂月令所謂
腐草化為蠲者是也云々今親ク見
ルニ蛆ノ如ク又行時ハ蛭ノ如シ鎮江
府志所謂一種水蛍居水中即是

△ワレカラ此物海中藻ニスム小虫ナリ形
水虱ニ似タリ又小蝦ニモ似タリ足多シ水ヲ離レテ稍跳ルモノナリ
予幼時実父藍水翁時抄写セル佐州採薬録ニアル図ヲ以テコヽニ
載出スルモノ也

書き下し

現代語訳

ワレカラ尾州*1産。その地の方言である。これは一
種の水虫で、ノリ又はジャコの中に混ざって
採れるものである。一寸*2または、寸半*3くらいあり、ニ
*4になるものも、結構ある。色は緑色。時々 
黄ばんでいるのは、色も形も別種とわけるのが
むずかしい。 工*5その為、「ワレカラを食わない僧
侶もいない」と言うのは能登国*6
人が広く知ることわざであるらしい。輪池先生*7
別に詳しい説がある。見るべき。紀
伊国*8ではワレカラは藻の中に 
にすむ小さい貝であるという。これも一説である。しかし、 
藻に生きている虫の説の方がふさわしいと思う。 
上図は尾張*9の人で植松忠右門有信と言う人
が屋代氏へ写して贈るものであるという*10 

蠲 ホタルムシ
五六月、池や沼の泥の中にいる。
形は平で、黒色、小さい刺がある。 
昼は眠っていて、夜
うごうごしだし、尾の下を
光らせる。蛍火と
おなじである。本綱*11弘景((陶 弘景))云
これは腐った葉や、腐った竹の根ところで脱皮した時、蛹の腹の下は 
すでに光っている。数日後、羽化して、よく飛ぶようになるというのは、これである。 
時珍*12がいうに、ウジ、イモムシの様で長く、尾に光があり、羽がなく飛べない一種で、
蠲という。俗名、蛍蛆、明堂月令*13がいう所
腐った草が蠲になる云々。今よく見るに 
蛆の様で、動く時はヒルのようだ 
鎮江府志*14でいうところの、水蛍、水の中に居るのが、これにあたる。

△ワレカラ これは海中の藻にすむ小さい虫である。形は此物海中藻ニスム小虫ナリ形
水虱*15に似ている。また、小エビにもにている。足が多く、水を離れて飛びあがる。
私が幼い時の実の父藍水が書き写した、佐州採薬録*16にある図をここに
載せる。

備考