千虫譜ウィキ - 原本A2-17


原本B

生物情報

翻刻

舡魚 蛮名 ヒツセナーチクス 右ノ図蛮書落立弟篤ラリテテト中にアリ直ニ抄出ス
本府俗ニ章魚舩タコブネト呼一名貝章魚カイダコト云此介殻殻ヲ介品ニ入ル
紀州ニテ葵介ト云小ナルヲ乙姫介ト云諸州ノ海中ヨリ産ス大
ナルハ六七寸小ナル者ニ三寸純白ニシテ形鸚鵡螺ノ如ク薄脆ニシテ
玲瓏恰モ硝子ヲ以テ製造スルモノニ似タリ文理アリテ尾壠ヲナ
ス略秋海棠葉ノ紋脉ニ彷彿タリ愛玩スルニ耐タリ中ニ一章
魚ノ小ナルモノコレニ寄居ス六手ヲ殻肩ニ出シ両足ヲ殻後ニツキ
ハリテ櫂竿ノ象ナラス海面ヲ游行スル事自在ナリ真ニ奇
物ナリ此章魚ハ外来ノモノニ非ス此介ノ肉ナリ経月大ナ
ルニ随テ此介モ又大ニナルモノナリ章魚ノ舩ニ乗タルニ因
テ此名アリ往年津軽海濱ニ此物一日数百群ヲナス事

書き下し

現代語訳

舡魚 蛮名 ヒツセナーチクス 右ノ図蛮書落立弟篤ラリテテト中にあり、直に写した。
本国では俗に章魚舩タコブネと呼ぶ。また、一名貝章魚カイダコという。この貝殻を介類に入れる。
紀州では葵貝*1という。小さいものを乙姫貝*2という。日本諸国で海中で採れる。
大きいものは、六七寸*3小さなものは、ニ三寸*4純白で形はオウムガイの様で、薄く脆く
美しく照り輝く様は、まるで硝子で作った物の様だ。玲瓏恰モ硝子ヲ以テ製造スルモノニ似タリ文理アリテ*5尾は畝に
なる。およそ秋海棠*6の葉の紋脈にそっくりである。大切に観賞するのに値する。中に一匹の
小さいタコが寄り住んでいるが、六本の手を殻の肩に出し、両足を殻の後ろに突っ張って
櫂竿*7ノ形をする。海面を自在に泳ぎ行く。本当に、珍しい
ものである。このタコは外から来たものではない。この貝の肉である。月を経て大きく
なるに、したがって、この貝も大きくなるものである。タコが船に乗っているのに、似ているので
この名がある。去年、津軽の海浜に、この物一日に、数百群をなすことが

備考

ラリテテトは、rariteitkamer*8のことだろうか。
アンボイナ珍品集成(1705刊 rariteitkamer)に、写したであろう絵がある。
また、アンボイナ珍品集成は、この絵を1551年刊行の
L'Histoire naturelle des estranges poissons marinsから写したと思われる。