千虫譜ウィキ - 原本A2-58


原本B

生物情報

翻刻

午七月廿三日写サヽムシ

ツユムシ春夏の際月夜スヽキ嫩葉
上にアリテ清亮高響
連綿ト〆耳ヲ貫カ如
キモノ是ナリ

喓々草蟲 草螽事物紺珠―ハ蝗属奇音々色ト云モノ
是ナリ京都ニテツユムシト云江戸ニテクグキリバッタト云此モノ口赤シ
因テ土州ニテアカクチト云讃州ニテリン々ト云此物ニ際リテ冬月
モチコシテ
春啼事
早シ予往年
厳冬麦門
冬叢
中ニ此
虫倒ニ
ナリテ根ノ
白キ所ニ咬着テアルヲ親ク見タリ向陽ノ地
青草アル処ニハアルモノナリ小焚中ニ蓄フニ啼
事ナシ野ニアルモノト𧈧共月夜涼ニ乗シテ自適
ノ時ニ声ヲ発ス故ニ養テ玩物ニ致シ■シ

書き下し

現代語訳

午年、七月二十三日写す。ササムシ

ツユムシ春夏のとき、月夜ススキの柔らかい葉の
上にいて、澄んだ音を高く響かせ、清亮高響
切れ目なく、耳を貫かれるような
ものは、これだ。

喓々草蟲*1 草螽 事物紺珠*2―ハイナゴの仲間で珍しい音を出すと云うもの
はこれである。京都ではツユムシという。江戸ではクビキリバッタという。このもの、口が赤いので
ちなんで土州*3ではアカクチという。讃州*4ではリンリンという。この物にかぎって冬月
もちこたえて、
春に啼くのが
早い。私は往年
厳冬期に麦門
*5くさむらの
中にこの
虫、さかさまに
なって根の
白い所にかみついているのを、よくみた。火のあたる地の
青草ある所には、いるものである。小焚*6中で飼っていたが啼く
事はなかった。野にいても、月夜の涼しさに乗じてのびのびとした
時に声を出すから、玩物ニ致シ■シ

備考