千虫譜ウィキ - 原本A2-61


原本B

生物情報

翻刻

田鶏 タガヘル
水鶏共云其肉白ク炙食〆美ナリ因テ鶏ノ名アアリ蛤ヲ以テ
称スルモ又同意ナリ味ヲ試ルニ赤カヘルヨリ淡泊不美

一種背上一道ノ黄 アルモノ本綱集解中ニ所
鼃ナリ此類多品アリ惣名水蛙ニ〆
佳テ聒ク鳴く者ナリ秘傳花
鏡ニ鼃一鼃鳴百鼃皆鳴其声甚壮
名鼃鼓至秋則無声矣ト云フ是
ナリ和泉府志青約ト云
大物ヲ大青約ト云本鋼集
解ノ土鴨ハ大青蛙ナリ事
物紺珠ニ似青蛙大腹鳴甚
一名耿鼃ト云フコヽニ図スル処
ノモノ即是ナリ 按ニ万葉集
五ニ多爾具久タニグクヲ出セリタニグクのサ
ワタルキハミ下略億良ノ哥也クニグヽは蝦蟇
ノ事ニテ深谷草木ノ中ヲ容易ニクゞルユヘニ云名
ナリト宣長の説ナリ

書き下し

現代語訳

田鶏 タガヘル
水鶏ともいう。その肉白く炙って食べるとおいしい。ちなんで鶏の名がある。蛤を以って
呼ぶものも、又同じ意味である。味を試してみると赤かえるより淡泊で美味しくない。

一種、背上に一筋の黄 あるものを、本綱集解*1中では所
鼃である。この類たくさん種類があり、総じて名が水蛙にして
好い声でうるさく鳴くものである。秘傳花
*2に鼃は一鼃が泣き始めると、百の皆鳴きその声は荘大で
鼃鼓となづく。秋に至れば、声はなくなるというのは、これ
である。和泉府志*3青約と云う。
大きい物を大青約という。本鋼集
*4の土鴨は大青蛙の事である事
物紺珠*5青蛙に似て、腹が大きくはなはだ鳴く
一名、耿鼃というのが、ここに図するところ
のもの、すなわちこれである。思うに、万葉集
五ニ多爾具久タニグクをみいだせる。タニグクのサ
ワタルキハミ下略*6億良*7の哥他、クニグヽは蝦蟇
の事で、深谷の草木の中を簡単にくぐる為ついた名
であると宣長*8の説である。

備考