海老洞穴は毛利家領土の、長州
*1清末海中に産して、その地の方
言である
蝲蛄の異品で、雌雄が一所に居て巣を造り、その
中に住む。巣の上下に穴があって、出入りするので、この名がある。この
巣の質は海綿のようで外国語でスポンギウスというものに似ている。芋麻糸
*2
で織った物のようだ。手触りは柔かく、俗にいうメリヤスのようだ。
軟ニシテここに
図した細かい、丸の所は、多分、小さい円の穴である。上端に長い糸があり、
細毛糸が銀色をなしている。ためしに、火中ニに投入じると、焼け焦げる
事はない。その性質は火浣布
*3に似ている。これは、又、人が知らないものである。
一体の形はヘチマに切れ目がないようである。ゆえに、海ヘチマと呼ぶ
この海ヘチマは薬品會
*4に出る事があって、偶々見た物
だけれども蝲蛄の造る巣である事を知らない。今ここによく
見てはじめて、ここに一識ヲ博フス
*5此モノ文政壬午
*6秋参欧堀田
*7 ヲモテ
矦が贈られた物である。
栗丹州誌 ウラ
海ヘチマ
海中産ザリガニのつくりあげる
巣である。或いは、海中にこの物生じてその後に
エビの雌雄来て寄居して、我室とする。
このエビヲ
寄生蝦という。殻の巻貝の中に
宿を借りるヤドカリとその意味は
同じといえる。この巣は雌雄のカニが
作ったものというが、かんがえるに、小エビの
つくったものではないだろう。友人芝陽
*8に見
せつまびらかにする。
蝲蛄異品ト云えるだろう。