千虫譜ウィキ - 原本A2-65


原本B

生物情報

翻刻

(右頁)
蜂ニ羽化セントスル前ニエビヅルノカラ腐朽シテ孔一ツアリ其孔ヨリ
蛹半分出カヽリテ殻ヲ残シ蜂二羽化シ出ツ其気
自ラ通徹〆自ラ腐テ竅ヲナス
乎知ルヘカラズ造化ノ妙言
外ニアリ
右ノ蘡薁虫五月末𧏡蜟ニ
ナリタルヲ 西城 御前ニテ
頂戴ス養フ事二十日ホドニテ黒蜂ニ化ス常ノ
蜂ト違ヒテ腰ホソカラズ形小ニ〆ブトウナリ
螫事を解スルヤ試ミズ蜂二羽化スルハ六月土
用入ノ時ナリ
往年小半年モ紙ニ包ミテ匣中ニ貯
置テ忘却シタリ捜索テ出ミルニ存活
自若タリ至テ性ノツヨキモノナリ
庚申五月十一日蛹ヨリ蛻〆出モノ如図羽ヲビリ々
ト動カス羽ニ粉アリテ蛾ノ如シ形ハ蜂二異ナル事ナシ羽ト
クト開アズシテ又蜂ニ似タリ螫事ヲセズ又アルクノミニ〆飛事ナシ

(右頁下段)
此蜂出ントスル前
ニエビツルノ皮上
ニ自ラ孔ヲ開ク
ヲミル此蛾クヒ
ヤブルニ及バズシ
自ラ出ル事自然
ノ妙ト云ベシコレ
理外ノ事ニ〆不
可測ノ事ト云
ヘシ人々コレヲ
自巳親シク
畜テ此妙ナ
ル事ヲ知ルベシ
文化丁丑七月写図

(左頁右上)
蠐螬 スクモムシ ハキダメムシ
ニウドウムシ 
チャウチンムシ

(左頁右下)
末ニカブトムシ化ト云両牙鋭利
蜈蚣ノ如ク鬚アリカブト虫ニ
似タリ俗ニハキダメゲンゴロウ共


(左頁左)
此モノ背ニテ行ク少シ見
ヌウチニヨホドイザリユク事
ハヤシカイコヽロムルニサイカチ虫ニ
化スト云同僚河埜良以自養テミタリト語リキ甲州ニテノケサト
云アオノケニナリテ走リサルト云事ノ省略セルナリ賤民ノ方言ト云共又感賞スベシ

書き下し

現代語訳

(右頁)
ハチに羽化しようとする前に、エビヅルの殻は腐って、穴が一つあり、その穴から
蛹が半分でかかって、殻を残してハチに羽化して出る。其気
自ら貫通して、自ら腐って穴をなす
か、わからない。神の造りの不思議が
あるのではないか。
右ノ蘡薁虫は五月末に𧏡蜟*1
なったのを、西城 御前で
頂戴したのを飼う事、二十日ほどして、黒い蜂になった。普通の
ハチと違って、腰は細くなく、形は小さくぶとう*2 
刺す事を事を解するのか、試みない。蜂に羽化したのは、六月土
用入の時である。
去年、小半年も。紙に包んで箱の中に貯めて
おいて、忘れていたのを探して出してみると、まだ生きており、
落ち着いていた、たいへん強い生命力である。
庚申*3五月十一日蛹から、脱皮して、出てきたのは、図のような物である。羽をビリビリ
と動かす。羽に粉があって、蛾のようである。形はハチと異なる事はない。羽
はよく開かず又蜂二似ている。刺す事はしない。また、歩くのみで、飛ばない。
(右頁下段)
このハチが、出ようとする前
にエビヅルの皮の上に
自然と穴が開く 
を見る。この蛾食い 
破ることをしないから、
みずから出ることは、自然 
の神秘というべきだ。これは
理の外の事して、
不可思議な事と云
べきだ。人々は、これを、 
自ら、詳しく 
飼ってこの神秘を 
知るべきだ*4
文化丁丑*5七月写図

(左頁右上)
蠐螬 スクモムシ ハキダメムシ
ニウドウムシ 
チャウチンムシ

(左頁右下)
生長すると、カブトムシになる。両の牙は鋭く
ムカデのようで、カブトムシ 
にているヒゲがある。俗にハキダメゲンゴロウとも
いう。

(左頁左)
この者背で行ク少し見
ない内に、ずいぶん行くのが、
はやい。飼い試みると、サイカチ虫に、カイコヽロムルニサイカチ虫ニ
なったという。同僚河埜良以*6自分で飼ってみたと語った。甲州*7ではノケサと
いう。あおのけになって走り去るという事の省略したのだ。賤しい身分の方言といえども、褒め称えるべき

備考