千虫譜ウィキ - 原本A2-89


原本B

生物情報

翻刻

(右頁)
閩書南産志云海膽殻圓如盂外密結刺内有膏黄色土人以
為醬舊志又有石榼注云形圓色紫有刺人觸之則刺動揺疑即
海膽而異其名也其類数品アリホシカブトヽ称スルハ刺■シ角力
ウバシト云尋常ノモノヽ刺ヲ介品中ニ入テ香箸介ト云コヽニ図ス
ル長刺七八寸ノモノ殻却テ小ナリ又奇品トスベシ左ニ図スル所
ノフトキ角カブ■シハ質磁器ノ如シ掌中ニニ三個ヲ置キ轉シ
動カス時ハ錚ヽチン々然トシテ金石ノ音ヲナス事又珍奇ナリ
蝦夷地方ノ海岸石上波打ギハニアリ方言ノナト云多ク此物アル
所ヲノナマイト云コレ地名ナリ形ハ同〆細刺ヲ生スル事柔軟ナ
リト云国所ニヨリテ此モノヲガゼト云此モノヽ介ヲワリテウニヲ
トル俗ニ雲丹ト称テ通用ス沿海諸矦ヨリ献上ニスルモノ是ナリ

(左頁上段)
大香箸雲丹ノ状殻ニ属シ
タル刺石英ノ如ク生ス
蛮書ラリテイトニ此
図出タリコヽニ写〆後
攻ノ便トス

薩州徳之嶋土名 グン ジヤン アツミ
大嶋土名 カアツー

(左頁下段)
同僚渋江長
伯駿遠採薬
ノ時ニ親覩図
スル所ノモノ
赭色ノ柔刺密
生ノモノ大奇品
也コレ時アリテ堅硬
ノ刺脱落シタル後柔軟〆
新刺更ニ生シ逐日漸長〆逐
ニ極硬ノ刺トナルモノナリ

書き下し

現代語訳

(右頁)
閩書南産志*1には海膽の殻は円く茶碗の様で、刺を密に生やして、内側に黄色いジェルがある。地元の人はそれを
調味料にする。舊志*2では石榼があり、注が言うには、形が円く紫色の刺がある。人がこれに触ると、刺を動かすというから
海膽はその異其名であると思う。その仲間は数品あり、ホシカブトと称するのは、■*3く角コ
ウバシという。普通の物の刺を貝の仲間に入れて、香箸貝という。ここに描いた
長い刺は七八寸*4のものは、殻がかえって小さく、珍しいものとすべきだ。左に図したもの
の太い角カブ■*5シは、質が磁器のようで、てのひらの上にニ三個を置いて転がし
動かす時はチンチンと、金属の音を鳴らす出す事もまた、珍しい事である。
蝦夷地方*6の海岸の石の上波打ち際にあり、方言でノナと言う。多く、これがある
所をノナマイと言う。これは地名である。形は同じで、細かい刺を生し、十何であると、
言う。国、所によって、これを、ガゼと言う。この殻を割ってウニを
とる。俗に、雲丹と言って、流通する。海沿いの諸大名から献上されるものはこれである。

(左頁上段)
大香箸雲丹の様子、殻について
いる刺は、石英*7の様に生えている。
海外の本ラリテイト*8にこの
図が出ていたので、ここに写して、後の
人の役に立つようにする。

薩州徳之嶋土名 グン ジヤン アツミ
大嶋土名 カアツー

(左頁下段)
同僚の渋江長
*9駿遠*10の薬剤採集
の時に、自ら観て図
したもの。
暗い赤色で、柔らかい刺が密に
生えていて、ひじょうに珍しい品
である、。これは時があって、硬い
刺が落ちたあと、柔軟にして
新しい刺がさらに生え、日増しに長くなり、ついに
極まり、硬い刺となる物である。

備考

渋江長伯が記したという、ウニであるが、
ラッパウニか、死にかけか、あるいは病気で刺がぬけた
ウニに見える。
丹洲は刺が生え変わり、管足*11か何かが、
伸びてやがて刺になると考えていたようだが、
現実には、管足や生えたての刺が柔らかいという事はない。
(欠けた刺は再生する)