千虫譜ウィキ - 原本A3-28


原本B

生物情報

翻刻

(右頁上段)
紫鉚虫 寛政中紅毛舩齎来者蛮名
コーセニイレ大サ碧蝉花ヲヽツユグサ ノ実ニ似タリ状長円
イロ々ニ〆不定背高ク ツマミタル如
ク筋ウ子リテ黒光漆ニ
テ塗タルカ如 シウスキ
処ハ赤ク燕 脂色ヲ
ナスモノアリ 質堅硬
ナリ腹ハ平ク 凹ク内ヘ
巻込カ如クモノモアリ 脚ナシ
木枝ヘ粘着スル処ナリ
此虫ニ三粒ヲ小皿ニ入熱湯ヲ灌入レ明礬■許ヲ
入レハ立処ニ紅汁出テ燕脂色出ル煮■メテ彩
色ニ用ベシ虫ハ皮ノミ残ルモノナリコレハゼルマ
ニヤ国中ヨリ産スル一種ノ虫卵ニシテヨハンニス
ブルードト云モノニ〆今コーセニイレニ偽充スルモノ
ナリ另ニ図説アリ参考スベシ

(右頁下段)
柚虫 又臭橘ニモ生ス五月
ヨリ六七月□アリ
卓氏藻林虫類
云唐詩
有花暖
青牛臥
之句、注
云、花葉
上青虫
也、有両
角如蝸
牛然

(左頁)
此物稀ニ見ルモノニ〆名ナシ紗ニテ製セル団扇ノ如シ大サ胡麻子ノ如シ
其羽透明ニ〆亀紋小筋精密奇巧譬ルニ物ナシ是亦□(穴冠に未咼)虫ノ類なるへき乎
ナキザミ及アヅキアライト云小虫アリ又此■類ナリ
薄羽アリ上ノ方竪ニモ羽アリ三方ヘ出画筆ニモ及難シ
一体全クビイドロ ニテ作ルモノヽ如シ千芳軒俗称軍配
虫另ニ又図説ア リ参考スベシ

茴香花

書き下し

現代語訳

紫鉚虫 寛政中*1紅毛舩*2もってきたもので、オランダ語で
コーセニイレ。大さは碧蝉花*3 ノ実に、似ている。形は長い物、円い物
色々で、ふぞろい。高さがあり、つまんだような 
筋がうねって黒光りしている。漆で 
ぬったようである。薄い 
ところは、赤くえんじ色を 
するものもある。質は硬い。
腹は平たく、へこみ、内側に 腹ハ平ク 
巻き込んでいるようなものもある。脚はない。 
木枝にくっつく所である。 
この虫ニ三粒を、小皿に入れ、熱湯をそそぎいれ、ミョウバンを■*4すこしばかり
入れれば、たちまち赤い汁が出て、エンジ色になる。煮■*5詰めて彩
色に用いるべし。虫は皮だけ残るものである。これは、ゼルマ
ニヤ*6国中からとれる一種の虫の卵*7で、ヨハンニス
ブルードというもので、今コーセニイレに、ト云モノニ〆今コーセニイレニ仮に充てるもの
である。別に図説があるので、参考にすべし。

(右頁下段)
*8の虫 また臭橘*9にもつく。五月
から六七月 ヨリ六七月□*10アリ
卓氏藻林*11虫類で
いう。唐詩の
「有花暖青牛臥」の句*12
注で云、花葉の上の青虫である、
    蝸牛のような、二つの角があるように。

備考

A1-77にもグンバイムシの記載があるが(B本にもグンバイムシの記載と同じ)、説明が違うので
別の機会に写生した物だろう。
アゲハチョウの幼虫は赤い臭角をだしている図が
省かれている。