千虫譜ウィキ - 原本A3-48


原本B

生物情報

翻刻

(右頁上段)
負子 コオイムシ京都ニテヒルメシモチト云 メシモリ𪜈云
汚水ノ水中あるいは池塘中にアリ其形タイコ打ニ
似テ背青黒六脚黒褐ニ〆赤色ヲ帯フ
雄ノ背上雌者卵ヲウミツクルニ粘
着〆ハナレズ不日ニ〆其卵中子
ヲ生スル事一夜三十個ニ及フ始
ハ白色ニ微黄ヲ帯背一條ノ緑色
ナル処アリ卵ヲ出テ立処ニ水
中ヲ游走スル事至テ疾速ナ
リ漸々ニ青黒色ニ変ス卵ヲ
負フ㝡初ハ白色ニ〆明徹圓カナル
形ナリ日ヲ経テ長ク横ヨリミレハ蜂房
ノ如ク上ヨリミレハ亀甲紋ニ似タリ又微
ク褐色ニ変スレハ卵頭両眼ノ黒点スキトヲ
リ見ユルモノナリ卵ヲ破リテ出ル処至テ速カ
ナリ小児トリテ弄玩ス亀甲虫ト云龍虱ニ比スレハ
甲柔カナリミガラノ類ナリ卵尽ク子ヲ生スルノ後甲アリ*1

(右頁下段)
腹ハ中ノスシノ処中高ナリ

(左頁)
テ石上ニ日ニ晒シテ能飛行ス
事物紺珠ニ負子ノ名アリ
江戸方言カッパト云
西陽雑組云負子水
虫也有子多負之ト
云モノ是ナリ

カヘリタテノ子ヲ顕微鏡ニテ見ルニ下図ノ
通リナリ
卵ノ形同断頭ノ方両眼透徹〆ミエル
全体白クスリ根ニクズ子リノ如クスキト
ヲルモノアリ甲ニ粘着ス

書き下し

現代語訳

(右頁上段)
負子 コオイムシ京都ではヒルメシモチという。 メシモリともいう
汚水の水中あるいは池沼中にいる。形は、タイコウチに
にて、背は青黒く、六脚は黒褐色で、赤色を帯びる。
オスの背の上にメスが卵をうみつけるのだが、粘
着してはなれない。ほどなく、その卵のかなに子が
生じる。一夜にして、30個にもなる。はじめは
白色で、かすかに黄色を帯び、背に一筋の緑色
の所があり、卵をでて、たちどころに水の
中を泳ぎ回る。たいへん素早い。
だんだんに青黒く変色する卵を
負う。最初はハ白色で、透明で、丸い
形であるが、日たつと、長くなり、横から見ると、ハチの巣の
ようで、上から見ると亀甲紋に似ている。また
かすかに茶色に変じると、卵に、頭両眼の黒点がすきとおり
見えるようになる。卵を破って出る所は大変すばやい。
子供がとって、もてあそぶ。キッコウムシという。龍虱*2とくらべると
甲は柔かである。ミガラの類である。卵はみな、子が孵化した後、甲があって*3

(右頁下段)
腹ハ中ノスシノ処中高ナリ

(左頁)
石の上で日にさらして、飛ぶ。
事物紺珠*4に負子の名がある。
江戸方言カッパという。
酉陽雑組*5がいうには負子は水
虫であると。子を多く負うという。と
いうものはこれである。

かえりたての子を顕微鏡で見たのが下図の
通りである。
卵の形も同じである。頭の方は両眼が透き通りみえる。
全体白く。スク根*6にくず練りのように透き通る。
ものあり。甲羅に粘着する。

備考