千虫譜ウィキ - 原本A3-5


原本B

生物情報

翻刻

(右頁)
石州濱田産方言クモダコ其五足促節細鱗甲アリ石龍子
ノ尾尖ニ似タリ表ノカタハ圓ク裏ノ方ハ平シ又打紐ニ似タリ真ニ奇
物ナリ其濱ノ漁夫ノ網ニ稀ニカヽリ上ル事アリト云裏ノ真中ニ口ア
リ梅花紋ノ如シ紀州
六百介品中ノ花筪ハ此モ
ノヽシヤレタルナルベシ

一体裏ハ
淡キカキ
イロ其口ト思シキモノ
裏ノ正中ニアリ花形
ヲナス

(左頁上段)
ヱソ地ヱトモノ産
ヒトデガイ

ムイ
蝦夷筥館ヨ
リ東ノ方ムイ
嶋アリ夫ヨリ
東ノ方カラフトニ至ル尽ク
此ムイノミアリ
絶テアハビナシ筥○ ○館邊□ □ヨリ西ノ
方ニハ多分ア▽ ▽ハビニ〆○ ○此ム――
イナシ此モノ
蚫ニ似テ殻ナシ
肉中に箭鏃ニ似た
ル硬骨アリ往昔ア
ハビ争闘シテ一方
負テ矢ニテ射ラレ殻ヲモ取レタリト夷人語リ
傳ルヨシ云ヘリ此ムイト云事ヲ読入タル一首ノ和歌アリ

ウキ㕝ヲ誰ニカ△
△タラムイソマクラ問ヨルカイモ定メナミマニ
冨山杢太夫
寛政年間ヱゾ調役
ニテ彼地ニ至ル仁
ナリ

書き下し

現代語訳

石州*1濱田産方言クモダコ。その五本足は促節*2細い鱗がありトカゲ
の尾の尖りに似ている。表の形は円く、裏の方は平たい。また、組みひもに似ている。本当に珍しい
物である。その浜の漁師がいうには、網に稀にかかって上がる事があるという。裏の真中に口があ
り、梅花紋のようである紀州*3
六百介品*4中の花筪はこの物
のシャレになってしまったのだろう。

一体、裏は
淡いカキ
色で、しの口と思われる物が
裏の真ん中にあり、花形
になっている。

(左頁上段)
蝦夷地*5ヱトモの産
ヒトデガイ

ムイ
蝦夷*6函館よ
り東の方ムイ
嶋がある。男から
東の方カラフトに至ルまで、ことごとく
この、ムイだけがいる。
まったくアワビはない。函館より西の
方には、たくさんアワビがいて、このム
イはいない。この物
アワビに似て殻はない。
肉の中に矢じりに似た 
硬い骨がある。その昔、ア
ハビと戦いをして、一方
傷をおって、矢で射られて殻さえもとられたと、アイヌ人が語り
伝えるという。このムイという事を読みいれた一首の和歌がある。

うき事を誰にか△
△語ろうイソマクラ 問いよるかいも定めなみまに
冨山杢太夫*7
寛政年間えぞに調役
でかの地に来た人
である。

備考