千虫譜ウィキ - 原本A3-51


原本B

生物情報

翻刻

(右頁)
サウの花 享和壬戌五月十七日下谷六軒坊ニ住ム尼空音ト號スルモノ
平素珍蔵スル処ノ古笋三糸ノ下ニ此花ヲ生ス往古ヨリ琴花ト称
スルモノヽヨシ文智 田安公ノ貴覧ニ備フト云顕微鏡ヲ以テ照観レハ
茎銀針ノ如ク光リスキトオリテグスノ如ク柔靭ニ〆力ヲ極テ拽ニ強ク
シテ截レカタシ 其后ウドンゲノ花サクト云事アリキヨク〱聞ハ即此物ヲ指テ云ヘルナ
リト

大サ図ノ如シ

虫目鏡ニテミタル図如此

(左頁)
瑞軒自園中ニ隋軍茶枝間ニ此モノヲ生ス一夜虫出左図ノ如シ其後水
野氏此物ヲ持来テ予ニ示ス提燈紙上ニアリト云予曰是虫卵ナリ然レモ*1
何虫ナル事ヲ詳ニセズ往々見アタルモノナリ偶笋上ニアリテハ常ニ人
ノ見馴ヌモノナレハ笋ノ花ト呼テ稀代ノモノト〆珍賞スルモ又理ナキ
ニ非又先年予ガ円中ニ生スル処ノモノ左ニ図上ス
小虫出ザル以前ハ卵褐色ナリ出タル
後ハ中空透
トオリテ
頭ニ一孔
アリ色
潔白宝
浄美観
ナリ

虫目鏡ニテ見タル図如此

書き下し

現代語訳

(右頁)
サウの花 享和壬戌*2五月十七日、下谷六軒坊にすむ尼、空音と号する人
ふだん大切にしまってあった古い琴や三味線の糸の下に、この花が生じた。古来から、琴花といわれる
もののため、文智 田安公*3の見るに、ついていたという。顕微鏡でもって照らしてみると
茎は銀針のように光って透き通り、テグスのようで柔らかく強いく、力をこめて引いても強く
切る事が難しい 其後。ウドンゲノ花咲くということがあった。よくよく聞けば、この物を指して言う
のだと、

大さは図のとおり

虫目鏡で見た図このとおり

(左頁)
わたしの自園中で隋軍茶*4の枝の間に、このものを生じる。一夜で虫が出る左図のようなものである。其後水
野氏*5此物を持ってきて私に示す。ちょうちん紙の上にあったという。私はこれは虫の卵だといった。しかし*6
何の虫であるかは詳しくわからない。よく見かけるものである。たまたま琴の上にあったのは普段人が
見慣れないものであるから、笋ノ花と呼んで世にまれなものとして、珍しくほめたたえるのも、また、理由ない
事ではない。又、先年私が、園中に生じた物をを左に描き上げた。
小虫が出る前は、卵は褐色である。出た
後は中は空で透
とおって
頭ニ一つ穴が
あり色は
潔白宝玉のように
清く美しい眺め
である。

虫目鏡で見た図はこのようである。

備考