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紫■
*4 音鑛 欧米産である。
綿臙脂*5を染める虫の名である。では、コーセニルレという。その形ハウ
エークロイク
*6に似ている。 木虱
*7の類ヲいう。 全体くまなく紅紫の血液を含む。たくさんとって、つぶして絞り、
液汁にして少しの綿を染めるもの。画匠が今日用いる生胭脂と呼ぶものは、これ
である。この虫は亜墨利加
*8州 南インド
*9とても暑い国の名である。 でとれる。イチジク
*10に似た樹上に生息するという。俗にこの
虫の汁で猩々紙
*11を染めると言い伝える。明和初年
*12西欧人が元来のコーセニルレを五
七個を、浪華の蒹葮堂
*13から贈られた。その形は豇豆
*14半粒
の大きさで、背はわずかに高く起き上がり、腹はかすかにへこみ、全体
平たく
木虱に似ている。横の文は蜚虫
*15のようだ。色は紫黒
で皺文の間に白く光がある。銀粉をすりこんだ
様に似ている。其一個を小皿に入れて、白湯を三分の一
ほど、注ぎ入れると、虫の体から深紫紅色の液が出て鮮
血のようだ。針の先端で虫の殻をとって、とろ火にかけて、たいへん
上等の彩色に用いられる。胭脂になる。本当に珍しいものである。
その後、この上等なものは、舶来する事がないのか、見あたらない。今回、舶
来があったけれども、下級品で、形は小さく平らで、色は青黒くわずかに鉄色をおび
る。このもの、
入尓瑪泥亜*16国のホレイゴニユム
*17ノ地方シントヤ
ン
*18の辺りの樹木から採る赤い虫で米粒のようだ。ヨハンニスブル
ードという。これをもって、コーセニルレであると、詐称して貿易する。これはまた
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一種の虫の卵である。日光の暖かい所に、おいておくと、生育して、羽のある虫に羽化するという。此虫のつくる
巣は、木枝に巻き付いて、生じる。赤く透明で硬く松脂のように見える。形は虫蝋
*19が木についているかのようだ。俗に
いうには、紫梗。薬屋が俗に花没薬と呼ぶものがこれである。時珍
*20がいうにはこれは、蟻漆赤
絮
*21である。薬用の麒麟竭
*22はこの虫が作る紫■
*23樹
*24の脂
であるという。
一にいう、オランダ名コンセニリイン。ラテン名コンネルラ。生活の時は細かい八
足
*25あって、うねうね動く。ブルードローセの小虫である。この説、貯血と言う
事およそ、蚊虻類をさしていう。
覇王樹上に生息するこの虫、紅色の汁をもって
猩々絨をそめるという。
欧米の名、ゴムラッカ
*26又はフロレンテイトテッカ
*27
地名 凝脂ノ事
欧米の説によると、コシネルラの虫はこの巣を作る事がない。全くべつもの
であるとする。