千虫譜ウィキ - 原本A3-65


原本B

生物情報

翻刻

(右頁)
地膽 其状似馬蟻而大自首至尾長八九分突眼長髭々
有節六脚々共五節毎爪端作岐背上生短翼全体黒光帯紺碧
似斑螫両脇有細點其毒又与斑螫無異其気臭而刺鼻此甲
陽山梨群石森邨所産土俗呼蟻於慈伊
■■■■■*1

三月廿五日野シン田ノ
野ニテトル地膽一種
大ナルモノアシノモト
紺青色ノ光アリ
丁亥四月二日写

(左頁)
駿州龍爪山多有罌子桐上有虫全身黒色映日紫翠有光加之
以朱斑燦然耐愛観然其毒猛烈酷於斑螫云是往年蘭山遊其
山所自採者
再按ルニ罌子桐ハ即油桐ナリ俗名ドクヱ此
油少許食物入レハ腹痛悶乱甚キハ死ニ
至ル此モノ燈油ニシタルモノ山家マヽアリ煙ヲ
吸フニ謝テ此燈火ヲ用レハ喉忽ニ閉鎖〆呼吸ナリ難ク
死に至ルモノアリ此葉ヲ乾テ鼠■*2塞ハ不出入細末〆
飯上ニ置キ飼ハ鼠死ス大毒アル木ナリ此葉ニ
ツク虫ナレハ其毒ノ猛烈ナル事不辨シテ
知ルベシ此虫甲堅ク破壊シ難シ丹色ノ地
ニ黒斑アルモノモアリ黒処ルリイロニ光ルモアリ
一様ナラズ

書き下し

現代語訳

(右頁)
地膽 その形は馬蟻*3ニ似ていて、大きい。自首至尾長八九分*4突眼*5長いヒゲには
六節あり、足には、共に五節、爪ごとに端はわれている。背の上に短い翼がはえ、全体は黒光りし、紺碧をおびる。
ハンミョウに似て、両脇に、細かい黒い点がある。その毒はハンミョウと異なることはない。其匂いは鼻を刺すようで、この此甲
*6山梨群石森村でとれたもの。現地では俗に呼ぶにはアリノオジイ
■■■■■*7

三月二十五日、野シン田*8
野でとる地膽*9の一種
大きいもの。足の根本は
紺青色の光がある。
丁亥*10四月二日写す。

(左頁)
駿州*11龍爪山におおくある罌子桐*12の上にいる虫。全身が黒色で、日に照らすと、紫がかった緑の光がある。加えてこれは
朱色の斑でもって燦然として、見て愛でるに値する。しかし、その毒猛烈に酷く於斑螫*13という。往年蘭山が其
山所遊び、自ら採集する。
また、思うに、罌子桐は油桐*14である。俗名ドクエ。この
油が少しでも食物にはいれば、腹痛は悶え乱れるほどで、ひどければ死に
いたる。この物を燈油にているものは、山間部の家にままある。煙*15
吸うのに、まちがって、この燈火をもちいると、のどは、たちまち閉塞して呼吸困難になり
死に至ることもある。此葉を干して鼠■*16ふさげば、出入りしなくなる。細かい粉にして
飯の上に置いて飼うと鼠は死ぬ。大毒のある木である。この葉に
つく虫であるから、その毒は猛烈である事、其毒ノ猛烈ナル事不辨シテ*17
知るべし。此虫の甲は堅く破壊するのは難しい。丹色*18の地
に黒い斑があるものもあり、黒い所がルリ色に光る物もあり、
一様ではない。

備考