(右頁上段)
狗蠅黄 ヤブスズ クサヒバリ
秋風が立って涼しくなって来た頃の朝から昼まで鳴く
羽をててて鈴虫のようである。その虫は、極小で、声は
清らかに澄んでいて、遠くに聞こえ、続いて途切れず、小さな鈴を揺らす
ようである。木葉にすむ。寒さ
がやってくると、屋内の
紙窓にはいって
鳴く秋のはじめ、涼しくなるの
を待って声を出す。
そのため一名アキカセ
という。小さな火で養って、秋の
色をたすけるとよい。
乙丑八月御小納戸佐野与八郎庭中ニテ得所ノ
一小虫があって、壬八月、同僚の河野良以から贈られてきた。形は
松虫に似て、小さく、背は、ヒハ茶色にして、尾に至る半身は黄色
である。声は大変小さいけれども、夜半枕のあたりで聞くとたえず、
やまず聞いて楽しむのに値する。これは俗にいう、邯鄲ギスである。
(右頁下段)
カンタンギス 邯鄲キリキリスとも
文政ニ巳卯
*1の秋月虫を売る者が持ち
出て世の人が飼うものがあった。私は初めてこの虫
を飼って声を聴くに、一晩中
途切れることなく、やまなかった。愛聴す
るのに、値する。
(左頁)
カネタタキ
一種形は長くして、その声は鐘を叩くのに似ている。その為に、名前がつく。秋風が立つ
のを待テナク、小さい音で、大変ひっそりとさびしいくなく。クサヒバリより
すこし遅れてなく。