千虫譜ウィキ - 原本A3-70


原本B

生物情報

翻刻

(右頁上段)
狗蠅黄 ヤブスヾ クサヒバリ
秋風立テ新涼ノ頃朝ヨリ昼迄ナク
羽ヲタテテ鈴虫ノ如シ其虫ハ極小ニシテ声ハ
清亮遠ニ聞ヘ連綿ト〆小鈴ヲ揺撼スル
カ如シ木葉ニスム冷
気至レバ屋中
紙窓ニ入リテ
啼ク初秋涼気
ヲ待テ声ヲナス
故ニ一名アキカセ
ト云小焚ニ養テ秋
色ヲ助クベシ
乙丑八月御小納戸佐野与八郎庭中ニテ得所ノ
一小虫アリ壬八月同僚河野良以ヨリ贈来ル状
松虫ニ似テ狭小背ヒハ茶ニ〆尾ニ至ル半身黄色
ナリ声至テ微ナレ共夜半枕邊ニテ聴ニ連綿
不止愛賞スル耐タリコレ俗云邯鄲ギスナリ

(右頁下段)
カンタンギス 邯鄲キリ々ストモ
文政ニ巳卯ノ秋月虫ヲ售ルモノ持
出テ世人蓄フモノアリ余始テ此虫
ヲ蓄テ声ヲキクニタヨリ終夜連
綿不止愛聴ス
ルニ堪タリ

(左頁)
カ子タヽキ
一種形長シ其声鉦ヲ敲カ如シ故ニ名ク秋風立ヲ
待テナク微音ニシテ至テ閑寂ナリクサヒバリヨリ
少クヲクレテナク

書き下し

現代語訳

(右頁上段)
狗蠅黄 ヤブスズ クサヒバリ
秋風が立って涼しくなって来た頃の朝から昼まで鳴く
羽をててて鈴虫のようである。その虫は、極小で、声は
清らかに澄んでいて、遠くに聞こえ、続いて途切れず、小さな鈴を揺らす
ようである。木葉にすむ。寒さ
がやってくると、屋内の
紙窓にはいって
鳴く秋のはじめ、涼しくなるの
を待って声を出す。
そのため一名アキカセ
という。小さな火で養って、秋の
色をたすけるとよい。
乙丑八月御小納戸佐野与八郎庭中ニテ得所ノ
一小虫があって、壬八月、同僚の河野良以から贈られてきた。形は
松虫に似て、小さく、背は、ヒハ茶色にして、尾に至る半身は黄色
である。声は大変小さいけれども、夜半枕のあたりで聞くとたえず、
やまず聞いて楽しむのに値する。これは俗にいう、邯鄲ギスである。

(右頁下段)
カンタンギス 邯鄲キリキリスとも
文政ニ巳卯*1の秋月虫を売る者が持ち
出て世の人が飼うものがあった。私は初めてこの虫
を飼って声を聴くに、一晩中
途切れることなく、やまなかった。愛聴す
るのに、値する。

(左頁)
カネタタキ
一種形は長くして、その声は鐘を叩くのに似ている。その為に、名前がつく。秋風が立つ
のを待テナク、小さい音で、大変ひっそりとさびしいくなく。クサヒバリより
すこし遅れてなく。

備考

カンタンギスは一種の総称か