千虫譜ウィキ - 原本A3-71


原本B

生物情報

翻刻

(右頁)
莎鶏 ハタヲリムシ 俗ニキリゞス ギストモ云
赤色多キアリ青色多キアリ莎草ノ上稷黍穂上ニ好テ棲炎暑
ノ時盛羽ヲ振ヒ鳴ク事織ヲ促テオルガ如シ
因テハタオリノ称アリ白露
ノ節ニ至レバ声ナシ其虫
モ又疲労〆不動只
六七月アルノミナリ
小焚ニ養フニ胡瓜ヲ
飼フ故ニウリクイ虫ト
云頭馬ノ如ニ〆形丸シ
口邊ニ髭二本ハ長ク二本ハ
短シフシアリテ小脚ニ似タリ
一種藪ノ内木枝上ニアルモノ
声高亮長ク鳴ク俗ニヤブキ
リト云形微ク大ニ〆翅長
ク鳴ク俗ニヤブキリト云

(左頁)
形微ク大ニ〆翅長ク遍身緑色ナリ是古名クダマキト云虫也ハタオ
リヲ俗ニシバキリト呼ブ
再按ニ此物帝京景物略ニ所載ノ呌螞
蚱ナリ形状モ能説得タリ
詩豳風六月莎鶏振羽陸璣曰如蝗斑色
赤翅数重飛而振羽索々作声尓雅翼
一名梭鶏莎梭音相近 正字通
尓雅翼莎鶏振羽作声其状頭小而羽大
有青褐而種率以六月振羽作声連夜札々
不止其声如紡糸之声故一名梭鶏今俗
人謂之絡糸之候 按今俗称管巻又名
藪切者即此物乎クダマキトシバキリトハ一
類二種ノミ

六月莎鶏振羽

書き下し

現代語訳

(右頁)
莎鶏 ハタヲリムシ 俗にキリギリス ギスともいう。
赤色が多くいる。青色のものも多くいる。莎草*1の上、稷黍(キビ、アワ)穂の上に好てすむ。きびしい暑さ
の時、さかんに羽を振るわせて鳴く様は機をせかして織るようである。
それにちなんで、ハタオリの呼び名がある。白露
が下りるころになると、声はきこえない。その虫
も、また疲労して、動かない。
六七月の間鳴くだけである。
小さな火の側でやしなうのに、キュウリを
やる為に、ウリクイ虫と
いう。頭は馬のようにして、形は丸い。
口の辺に髭が二本は長く、二本は
短い。節があって、小さな脚に似ている。
一種やぶの内の木枝の上にいるもので
声が大きくはっきり長くなく物を、俗にヤブキ
リという。形が少し大きく、羽も長く
鳴くのも俗にヤブキリトいう。

(左頁)
形すこし大きく羽が長く前進緑色である。これは、古くはクダマキという虫である。ハタオ
リを俗にシバキリと呼ぶ。
再按ニ此物帝京景物略ニ所載ノ呌螞
蚱ナリ形状モ能説得タリ
詩豳風六月莎鶏振羽*2陸璣*3がいうには、イナゴのようで、まだら色
赤い羽根が数枚あり、飛ぶ。そして、羽を振ると、サクサクと音をだす。尓雅翼*4
では一名梭鶏、莎梭、音はよく似ている 正字通*5
尓雅翼によると莎鶏は羽を振って、声を出す。その形は頭は小さく、羽は大きい。
青色と褐色とあり、種率*6六月になると、羽を振って、声を出す。連夜サツサツと
やまない。その声は糸を紡いでいる音に似ている。その為、一名、梭鶏、今は俗に
人が言うには、これを、絡糸と。 思うに、今、俗に呼ばれる管巻また、名を
藪切という者はすなわちこのものか?クダマキとシバキリとは一
類で二種である。

六月莎鶏振羽*7

備考

整理すると
・キリギリス=ギス=ハタオリ
=ウリクイムシ
・クダマキ=ハタオリ=ヤブキリ
・キリギリスより少し体が大きい
シバキリとヤブキリは同じ類の二種

実際描かれているのは…誰か同定できませんか…??