藁で編笠のような物を作り内の上の所に酒を塗り蜂の多く群がっている所を
枝の上におおうようにおいて、下から竹の葉で追ってやると皆其の中に入る。一匹蜂が入れば
他の多くの蜂もその蜂を訪ねるように皆入っていく。
これをとって、表にかえして置き、其の上を箱で多い、手拭いでつつみ
一夜をけば、皆箱の中に上り入る。
蜜蜂の巣を取るのには時期がある。秋の土用
*9が明けてから取るのがよい。
大抵半分は残して半分をとるべきである。三分の一だと、蜂が多い時、春まで
食料が不足する事もある。その年により、雨が続いたり、風が
荒く吹き寒さが早く来て花が少ない年は、巣の孔に蜜を詰めない
事があり、空巣という。蜜を詰めてある巣を飴巣という。この空巣は取り去る。
巣を取るにあたり、道具がある。鉄で作った60cm程度で
先の幅5cm程度の刃がある。箱の隅を突き切る物を突切という
また、鍬の形をしていて、柄の長さが60cm程度先に5cmほどの刃があり、
どれも木で柄をつけて握るのに便利にしている。またこの形で、先のとがっている
ものもある。端の曲がっている所から尖るところが5cmほどある。
以上の二本を掻切と名がついている。その外に庖丁というもの、今俗に薄刃という物の
ようなものが、もっぱら用いるものである。だいたい巣を取るのには秋の土用のあと、七日八日十日頃
がよい。天気快晴の日中がいい。大抵月初め十日頃から、二十日頃までよくない。
なぜかというと、月夜なので、蜂が夜中遊びに出て、花巣のままにしておく。
暗い夜は花巣が少なくて、蜜が多い。花巣とは、花の中の花粉を房の孔に詰めてこれを醸す事をしないで
黄色い粉のままにしてあるのを言う。闇夜は夜も外に紛れて遊ぶことはしないで、もっぱら巣にいて
花粉を蜜に醸す事が多いという。この説は、古い人の知らない事で、
先輩の本にも載っていなかった。これは南紀州西国中で蜂を飼い巣を採集するのを自ら観た時、
庭方隆蔵という人が語るのを聞いたまま珍しい事なのでここに記した。
その蜂の堂の扉を開き右を切ろうとするときは右の方の箱の上を軽く叩くと
皆左の方へ集まる。右の方の巣が見えるようになったのを切り取るのは簡単である。
また左の方を切ろうとする時も同じようにする。群れた蜂が怒って人を追い回したり刺すだろうと
あらかじめ覚悟していたが、意外に穏やかで、普通の蜂の類とは全く違う。巣を切り取る人
は服を腰にまとって、上半身は服を脱いで肌をあらわにして切り取るのに、すこしも毒に刺される様子がない。
その人が言う事には「服の間に蜂が入ったのを押すか、痛めつけると、ようやく刺す。人を刺すと、
その蜂はたちまち死んでしまう。だから人を刺す事を好まないのだ」という事である。恐れるにたらない。
もし、刺されたたといっても、他の蜂のような腫痛はない。その毒も大したことはない。
もし刺された人はすぐに生蜜をぬるべきである。すぐに、その痛みは止まり腫れも
ひき楽になる。
大体世の中に流通する丸薬は薬剤を皆この蜂蜜を練り、不純物を除いて作る物である。
世の人々はこれによって他にない好い薬を使う事ができるようになった。
人々はこの物の利益を得るもの数えきれない。しかし、蜜は
どんな物かという事を研究する人はいない。ただ、味が甘くておいしいという事を
知っているだけである。なので、ここ(に――次ページへ続く