千虫譜ウィキ - 原本B1-21


原本A

生物情報

ニホンミツバチ

翻刻

ヘカラス是ニヨリテ此物ノ瑞奇ナルヲ知ル因テ此虫譜ノ巻首ニ載テ弘ク人ニ知ラシ
ムルノミ
蜜蝋コレ蜜蜂ノ巣ヨリ採タル蝋ナリ新造ノ巣ハ色白シ即白蝋トナル経日累
月ノ者色黄ナリ年陳久ノ者ハ老乕カバ色ナリ採ル法巣ヲ手デ砕シ銅鍋ニ入水ヲ等分ニ
入文火ニ煮箸ニテ撹スレハ巣尽ク洋化ス別ノ甆器ニ冷水ヲ盛リ置キ馬毛籮ヲ用テ
右ノ水中ヘ漉入レハ蝋水上ニ凝浮ヲスクヒ聚メテ薬ノカゝリタル磁椀ニ入レ湯煎ニスレバ凝
結シテ一塊トナル腫科専用テ膏ニ加フル者ナリ西書云和蘭ワスと云羅甸セーヲト云セー
フアルハト云ハ新シキ穉蜂ノ作ル巣ニテ取ルヲ云アルハ白色ノ義ナリニセーラヒルギ子アト
云處女蝋ノ義ナリ人作ヲ用ヒスシテ作出スモノ手イラズノ意ナリ又人作ヲ以テ晒テ黄ニシテ白ニスル
モノ多シ羅甸ニセーラフラハト云此苗蜂房ヨリ取ル處ノモノヲ指テ云フラハト云ハ黄ト云事也
其主治患処腫痛テ消散セント欲ハ黄蝋ヲ用ユヘシ清涼ニセント欲セバ白蝋ヲ用ユヘシ黄ハ諸般
ノ硬膏類ニ用ヒ白ハ芳香軟膏用ユ又封蝋ニ五彩ヲ加ヘ用ユ又硝子瓶口封スルモノヲ
製ス栓蝋ト名ツク〇正字通□*1𧒒字注云𧒒房如脾故曰蜜脾冬寒即人割其蜜々
脾底為蝋々生于蜜々甘蝋淡以物無両美也〇蜜蝋ハ即黄蝋也異名黄色腊又云

(右上から)
通蜂  門蜂  掃除蜂

大将蜂
 親蜂トモ云   同

通蜂 水吸蜂  内ニテ働蜂

書き下し

現代語訳

はならない。そういう訳で、この不思議なことをしり、
この虫譜の巻の初めに載せて広く人にしらせたいと思う所である。
蜜蝋は蜜蜂の巣から採った蝋である。新しい巣は色が白く、白蝋となる。
年を経て色黄色になる。さらに年を経た物はカバ色になる。採る方法は
まず手で砕き、銅鍋に水を同じくらいに入れ弱火で煮て箸で混ぜれば
巣はみなとける。別の釉薬のかかった磁器に冷水を入れて置き、
馬毛籮ケスイノウ*2を使って置いてあった冷水に
漉しいれると蝋は水の上に固まり浮く。それをすくいとって
*3のかかった磁器に入、湯煎にすれば一塊になる。
できものに塗り薬として加えるものである。
西欧の書がいうには、オランダ語でワス(was)ラテン語でセーラ(sara)という。
セイラアルハ言うものは新しく若蜂が作る巣をとったの物言う。アルハ(alba)は
白色の意味である。オランダ語にセーラヒルギネア*4というのは女蝋*5の意味である。
人の手間をかけずに作り出すもので、「手いらず」の意味である。また人が手間をかけて
晒して黄色を白くする物が多い。これをラテン語ではセーラフラハという。
これは古い蜂の巣からとるものをさしていう。フラハ*6とは黄色という事である。
患部が腫れて痛むのを取り除きたいならば、黄蝋を使うとよい。清潔に冷やしたい時は、白蝋を使う。
黄色はさまざまな硬膏*7類に使い、白は芳香軟膏ニオイアブラ*8
使う。また、蝋に様々な色を加えて封に使う。ガラス瓶の口を封じるものも作る。栓蝋という。

漢文翻訳中

備考

蜂の真社会性が、父と子、君臣の関係をよく守る儒教の教えを
体現しているように見えた事が筆者にとっては大変不思議なことだったと見える。
巻頭蜂を記したいという強い思いが読み取れる。