千虫譜ウィキ - 原本B1-23


原本A

生物情報

カイコ

翻刻

万葉集十一養子かふこ歌にたらちねの
はヽがかふこのまゆごもりこもれる
いもをみむしもかなとありかふこ
和名抄蚕和名加比古一訓古加比須

蠶カヒコ和名抄関東ニヲコト云三月清明後蚕連帋タネガミヨリ蛻シ出ル事早晩アリ大概辰巳ノ将ニ出僅
ニ分許黒褐色首ハ御米子ケシノミノ如ク黒く光ル蟻ト云䖢ト云モノ是ナリ凡此タ子紙ヲ寒ノ水ニ浸シ又
雪ニ暫ク埋ル事アリ極テ性ヨク糸強ト云桑嫩未発以前ニカヘリ䖢出レハ食ニ困ル故出サル
ヤウニ見合ス事アリ此時ハ種紙ノ角ニ糸ヲ穿チ風透處ニツリ置事アリ風乾ニヨリテ脱出セス

書き下し

現代語訳

万葉集十一の養子かふこ歌に「たらちねの母が飼うカイコが繭にこもるようにこもっている
愛しい人にあうすべがあればいいのに」とある。かふこ和名抄*1では蚕。
和名加比古カイコまたは古加比須コカヒス
蚕―和名抄*2ではカヒコ、関東ではヲコといい、三月清明後*3タネガミ*4おそかれ早かれある。
大概辰巳*5の時に、わずかにニ分*6程度黒っぽい茶色で頭がケシ粒のように黒く光るものが出てくる。
蟻とも、䖢というものはこれである。
このタネガミを冷たい水に浸したり、雪に暫く埋める事がある。
とても質がよく、糸が強いという。
桑の若葉が出る前に小さなカイコが生まれれば、食べ物に困るので
出てこないように見合わす事がある。此時はタネガミの角に糸を通して風のとおる所に
つっておく。風によって乾き、卵から生まれる事がない。

備考

万葉集では、「カウコ」、和名抄では「カイコ」と変化が見られる。
カウ、カイは「飼い」であり、「コ」がイモムシを意味するのだろう。