千虫譜ウィキ - 原本B1-27


原本A

生物情報

カイコ ヌルデ ヌルデシロアブラムシ

翻刻

許リ得難シ雌雄トモニ用ユヘキナリ其新鮮ナルモノヲ撰ヘシ凡蚕蛾雌ナルモノハ最初ヨリ種子
腹ニ充ツ其交合ヲ待テ能産シ其種子能生育ス〇蚕沙 和名抄ニコリソト称ス原蚕沙ハ
ナツコノコクソ也古今医統ニ一名馬鳴時*1ト云程齋医抄撮要ニ夏金沙ノ名アリ本草彙言ニ蚕沙
ハ即蚕糞也以晩蚕者良ト云本経逢原ニ微炒用惟晩者為良早蚕者不堪入薬以飼時
火烘故有毒也コヽニ予用ヲホヘノ奇方アリコヽニ挙ク蚕沙ノ性ヨク吸寄功スルドナリ凡眼中ニ物
ノ入タルニ水ニテ堅シテ此モノヽ細末ニシタルヲネリ微長クホウレイ綿ニ付テ眼ニハサムへシ其時ニ入タル
モノ立處ニ出ス又旧時入タル塵埃ト𧈧トモ吸出事妙也予往年鹿角ヲ焙リ石臼ニテツキ粉ニスル事
アリ眼ニ入ル三角ニシテ蕎麦子ノ大サナリ痛ミ不可忍此モノヲ新ニ粉ニシテネリ綿ニ着テ眼ニ挿ム
須更ニ尖角踊出立處ニ痛苦ヲ免レタリ小児鵞口瘡ニ食塩少許ヲ入レ此末ヲヌリ擦ツケ
置ハ口熱ヲ去リ漸々ニ白キモノ剥去ル本草附方ニ小児口瘡ヲ治ス
五倍子一名五去風同春小血竭百一選方薬用ニスルニ文蛤ト云是ヌルデノ木ニ生スル虫ノ巣ナリ
ヌルデノ木ノ実ノ如シ去ナカラ実トハ別ナリ実ハ塩麩子也本綱味果類ニ本條アリ五倍子和名
フシ古歌ニミヽフシト云生ニテ木ヨリ採リタルマヽノモノキブシト云フシノ木漢名膚木葉漆葉ニ似
テ大ニ粗キ鋸葉アリ秋深シテ紅葉美ナリヌルデモミチト云此木山野ニ極テ多シ山中ニ産スル膚木ニ

原蚕ナツゴ所作ノ繭形円ニシテ軟ナリ春子ノ緊小ノ
クビレアルニ異ナリ其品ナル種子ニ至レハ四五蚕一
繭ニ入其状異ニシテ醜シ亦八蚕一繭ニ入甲州方言八
人枕ト云

書き下し

現代語訳

前ページより 雄)ばかり得るのはむずかしい。雌雄共に用いるべきだ。その新鮮なのを選ぶべきである。およそ蚕の雌は
最初から卵を腹に一杯なので、交尾を待ってば、よく卵を産み、その卵もよく生育する。
○蚕沙 和名抄にコクソと言われている。原蚕沙はナツゴのコクソである。古今医統*2に、馬鳴
肝という。程齋医抄撮要*3では夏金沙の名があり、本草彙言*4には、蚕沙は即ち、
蚕の糞で、晩蚕が良いという。本経逢原*5に「翻訳中〜
〜」
ここに私は用いる変わった方法が覚えがある。ここに挙げる。蚕沙の性質はよく吸い寄せる効能がある。
たいてい眼に物が入った時は水で堅めたものを細かい粉末にして練り、細長くほうれい綿*6につけて眼にはさむ
とよい。この時に入った物はすぐに出る。また、昔入ったチリやホコリであっても吸い出すのは、すばらしい。
私は過去に鹿角を焼いて石臼でついて粉にしていた時、眼に入ったことがある。
三角でソバの実程のおおきさで、痛くて耐えられない程だった。
此物を新しく粉にして練り、綿につけて眼にはさむと
しばらくして、尖った角が躍り出た。たちどころにに痛みが治まった。
子供の鵞口瘡*7に食塩を少しばかり入れこの粉末を
ぬりすりつけておけば、口の熱がなくなり、だんだん白い物
剥がれ去る。本草附方*8に子供の口のできものを
治すとある。
五倍子。五去風の別名。回春*9小血竭百一選方*10薬用にするのに、文蛤という。これはヌルデの木につく虫の巣である。
ヌルデの木の実のように見える。けれども実とは別である。実は塩麩子という。*11本綱味果類の部分に、この事が書かれている。
五倍子、和名フシは古い歌ではミミフシという。生で木からとったままのものをキブシという。
フシの木の中国の名、膚木の葉はウルシの葉に似て大きく粗いノコギリのようなふちがある。
秋が深まると、紅葉が美しい。ヌルデモミジという。この木は山野にとても多い。
山の中に生える膚木に

原蚕ナツゴ作る繭は円形で柔らかく、ハルゴの固く小さく
くびれがあるのと異なる。
その卵となると、四、五匹が一繭にはいったりして、醜い。
また、八匹の蚕が一つの繭に入る事を甲州*12方言で八人枕という。

備考